『始まり』
「好きだよ」
涙をぼろぼろ零しながら一歩は言った。
「自分でも分かんないよ。なんでこんなに宮田くんが好きなのか」
地面には零れた涙の染みができる。
「宮田くん好きだよ。気のせいでも勘違いでもないよ」
「・・・・・」
「もう憧れとかじゃ・・・ないんだ。違うんだ」
次々溢れる涙を腕で拭きながら、震える声で宮田に告げた。
「泣いてごめん。見っともないよね」
「幕之内・・・」
「苦しいよ。どうしたらいいのかな・・・」
こんな事態になったのはついさっき。
嬉しそうに寄って来る一歩にそっけない態度で返す。
ひたすら前を見て歩く宮田に、後ろから付いて歩くのは何時ものこと。
二人にとってはこの状態が当たり前なのだ。
何時もは返事がなくても一方的に語りかける。
宮田が何も言わない、もしくは「・・ああ」のみの短い返事なんて事も珍しくない。
別に聞いてないわけじゃない。ただ何て返していいか分からないだけ。
そんな会話でも、特に気にしてるようには見えなかった。
でも今回は一歩の一人語りはなく、しばしの沈黙が続いた。
「・・・好きだよ」
突然の告白。
思いがけない言葉は先を歩く背中に告げられた。
宮田の足が止まった時、一歩の足は既に止まっていたようだ。
「宮田くんが好きなんだ」
ゆっくり振り返ると、顔を真っ赤にして下を向いて、肩を震わせる日本チャンピオンがいた。
そして上記に至る。
宮田は一つ息を吐くと、ある提案をした。
「じゃあ試しに付き合ってみるか?」
「・・・え?・・・」
予想外の言葉に、一歩の瞳が見開かれる。
絶対拒否されると思ったから。
冷たい視線をくれた後、何も言わず立ち去ると思ったから。
「お試し期間だ。そうこうしてる内、もしかしたらお前の感情は違ったて思うかもしんねえだろ?」
「あ・・・あの・・・え?・・」
「無理強いはしないが」
「い、いいの?」
「そうすればお前の気も済むだろ」
「う、うん!宮田くんがいいなら!」
「じゃあ決まりだな」
「うん!!・・それで期間は・・い、いつまで?」
「そうだな・・・とりあえず三か月にするか。その間に解消してもいいし」
「もし・・もしボクの気持ちが間違ってなかったら?」
「その時にまた考える」
「・・・・うん・・・」
一歩は握り拳を作ると、宮田を真っ直ぐ見つめた。
「よろしくお願いします!」
「あぁ、よろしく頼むぜ」
こうして二人の関係が始まった。
end